今日から不良王子と同居します。
「これまでありがとう、音葉さん。もう会わないほうがいい。その方が音葉さんのためなんだ」


「まって、でも……こんなに急に」


だけど、彼を引き留める資格なんて私には無いから。


彼を説得できる言葉なんて浮かばない。


彼になんの約束もしてあげられないんだから。


「俺、本当にもう限界で。このまま一緒にいたら音葉さんを奪うために何でもやりそうだから……それも怖いんだ」


辛そうな彼の表情を見たら泣いてしまいそうだった。


彼は私の手を離して背中を向けてしまう。


やだ、いやだよそんなの。玲生くん行かないで。


「ごめんね、こんな無様な別れ方しかできなくて。
俺のことなんてもう気にしなくてもいいから。音葉さんは幸せに……」


向こうを向いたままの彼は苦しそうに項垂れる。


「幸せになってね」
 

そう言って、そのままお邸の方へ走り出してしまった。


お願い、行かないで。


心の中で必死に叫んでいた。


でも私は泣いたらいけないんだって思った。
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