今日から不良王子と同居します。
彼は自分の両手をじっと見つめる。


見れば、その手のひらにはペンで何か書き込まれていて。


「婚約破棄のお詫びをしてそれから……あ、でもやっぱ先に」


彼はひとりごとのようにブツブツ言っている。


心なしかいつもよりも表情が硬くなっていてちょっと心配。


「大丈夫?」


「あ、ああ。頑張るよ」


本当に大丈夫かな?なんだかガチガチなんだけど。


「お父さん………を僕に下さい、僕に、僕に、必ず幸せに……」


小さな声だから全部は聞き取れないけど、何度も繰り返してるみたい。


「?」


彼の背中をさすりながら、お邸の正面玄関の前までゆっくりと歩いていく。


さっきからなんの練習をしているんだろうか。


彼は普段から何でもできて余裕もあって完璧な人なのに。


恋人の父親に会うのってそんなに緊張するものなのかな?


いよいよ玄関前にたどり着いたときに彼が盛大にため息をついた。


「よ、よし」


自分の両頬を手のひらでパンパンと叩いて気合を入れている。


「大丈夫?」

< 369 / 373 >

この作品をシェア

pagetop