俺の宝物は、お前の笑顔。

「健二、せっかく最後なんだし笑顔で景色見ようよ!」



観覧車の中、いつもの通り、健二は無表情で頬杖をついて外を見ていた。



「笑顔……んー、俺笑顔得意じゃないんだよ」



……さっき自分で言ったくせに。笑顔ほどいい表情はないって。
それなのに、そんなこと言って自分は笑顔にならないなんて、ずるいや。この言い出しっぺ。



「笑顔……えっと、それじゃあ」



名案を思いついたあたしは、健二のすぐ隣に座り直した。



「えいっ」



あたしは健二にぴったりくっついて、横から手を伸ばし、お腹をくすぐった。その拍子に、健二は顔を歪ませてプッと吹き出した。



「くっははは……やめろ、ゆりあ!」



「すっごーい、健二笑った!」



あたしは手を止めて、自分の口元を抑えながらフフフっと笑った。



「お前が無理やり笑わしたんだろうが!」



「でも嬉しい。笑顔が難しくなったら言ってね。いつでもあたしが、笑わせてあげる!」



「二度と言うか!」



憎まれ口を叩いているけれど、こんなにも一緒にいて安心できる人は、彼しかいないな、とあたしは思った。


キャラメルのように、ちょっと苦い彼。
キャラメルのように、どこか甘すぎるところのある彼。


笑顔が……たまにしか見られないけど。
……それでもいい。


見られても見られなくても、宝物だから。


あたしの宝物は、あんまり見られない彼の笑顔。




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