俺の宝物は、お前の笑顔。
俺の名前を呼んだ女子の声が聞こえて、思わず振り返った。
……振り向かなくても、誰か分かってるけどな。
「そ、袖川……」
案の定、俺と中学が同じだった、袖川 麻衣。
だから振り返らなくても分かるんだよなあ。袖川の声なんて、何十回も聞いてきた。
声の色が分からなくても第一に、俺のことを下の名前で呼ぶ女子なんてこいつしかいない。
見た目はいいし、こんな風に明るく振る舞うもんだから、うちのクラスの男でもこいつを狙ってる奴は少なくない。
しかし、俺はこいつに対して困ったところがあるから別にどうでもいいんだけどな。
「何よー、1位取れたくせに浮かない顔しちゃって」
そう言ってから、袖川はペチンと俺の頬を叩く。
「いや、別に……」
……やたらとスキンシップが激しい。
俺が袖川に対して困ったところは、まさにこれ。
こいつはマジで懲りない。
どっかで、俺と中学が同じで告白を断られた女子がいるっていう噂が広まったらしいけど、それでもこいつは変わらないんだよな。
あの噂は、俺は基本的にスルーしてて誰にも事実かどうかのことは言ってないけど本当のことだ。
卒業式の時に、袖川は俺に告白してきた。
でも俺は振ったんだ。