シークレットガール
「おい! 星野! 来てやったぞ! どこにいるんだ!」
ターゲットが来たみたいだ。私はお気に入りの包丁を持って秋元くんにそっと近づいた。
まだ気づいていないようなので声をかけてみることにした。
「ねえ、秋元くん! こんな所で何してるの?」
流石に彼もビビったようだ。それも当然か。だっていきなり背後から声をかけられたのだから。きっと誰でもびっくりすると思う。彼は恐る恐る振り向いた。声をかけたのが私だと知って少し安心しているように見えた。
「何だ。加藤か。びっくりさせるなよ。ってここら辺で星野のやつ見なかったか?」
「あ、星野くんならあそこの右角に行ったよ。何でだろう。」
「お、サンキュー。」
そう言って彼は右角を曲がった。その後は一応説明すると星野くんが秋元くんを制圧し、私が仕留める。そんな感じかな。何か星野くんがやってみたいということでやらせてみたんだけどやっぱり面白くないや。
無様に逃げていくその姿を見るのが醍醐味なのに。でも確かに楽ではあった。でもただ楽なだけで面白みが欠けてしまった。やっぱり私一人でやるか。
「ほら、全然面白くないじゃん。なんだよ。まだ全然足りないんですけど!」
そう言って私は彼をそっと睨んだ。彼は「俺は違うぜ。すっごく楽しかったけどな。お前はやり過ぎたんだよ。これ以上何が欲しいって言うんだよ。」と不快そうに言った。
「教えてやろっか。」
私は冷たく言い切った。まるで万年雪のように冷たく、マリアナ海溝のように深い、と私は思う。大袈裟かもしれないけど何かこう言う表現って良いよね? 何か言葉一つ一つが生きているみたいに脈打ってるような気がするし。
「いや、別に聞きたくねぇよ。お前のことだからきっと頭のネジがぶっ飛んでることしか言わない気がするから。」
「そんなことないよ!」
これはちょっと傷つくな。私の頭のネジが何だって? 本当に失礼な奴だな。
「もういい! 片付けるから手伝って!」
「ちぇっ、しょうがねぇな。」
彼はそう文句を言いながらも片付けるのを手伝ってくれた。つべこべ言ってくるのを除けばいい奴なんだよなぁ。
「何やってんだよ! お前もやれよ!」
こんなことで影がさしてしまうとは。「噂をすれば影がさす」の「噂」って範囲広すぎじゃない?
まあ、いいや。言うのもめんどい。今日は帰ったらすぐ寝よう。そう思いながら私はもう冷たくなった秋元くんの死骸に包丁をそっと近づけた。
もうすぐ彼の死骸はバラバラになってしまうだろう。まるで私の心みたいだ。私の心はとうの昔にバラバラになってしまっている。ああ、思い出したらまたイライラするな。
やめよう。もう過去を引きずるのはやめにしよう。考えれば考えるほど私はもっともっと「悪」に取り憑かれるだけ、何も良いことがないと言うことを私は知っている。
だから私のために封印するのだ。私の心の一番奥に閉じ込めよう。父を装ったあの「悪魔」のことはもう考えたくない。
本当に嫌になるなぁ。こんなことまでして生きる意味があるのかなぁ。
何弱気になってんだか。私らしくないじゃないか。私は尊い存在だ。人の命を喰らい尽くす、そんな「バケモノ」なのだ。
うん? そうでもないって? そんなことないよ。私はもうあの頃には戻れないんだよ。私は「バケモノ」か「ケダモノ」であって決して「人間」なんかじゃない。
そうだとは思わないかな? でも別に良いや。自分のことは「自分」が一番の理解者なのだから。
私の思うことがつまり「私」なのだ。私の言葉に嘘はない。間違いはない。私はそう思う。
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