ひと夏の守護天使
 入り口は抵抗も無くぬるりと侵入した。

 医療用のシステムは粘膜っぽい感覚があった。

 ハーフライドは、CSの感覚とRSの感覚が交じり合い、気持ちが悪い。

 RSの視覚では、ザッハとシンが嵐に対して銃撃を開始した所だった。

 そのまま、感覚をCSにシフト。

 医療用インプラントの先は、問題なく侵入した。

 神経系のモニターラインを選択。

 そこで違和感。

 CSの時間感覚ですら処理のしきれない、高速な神経伝達信号がバッファフローを起こしそうになる。

 人のそれとは違う神経伝達信号の速度に酔う。

 即座に人体ハックツールの初期設定を書き変える。

 神経伝達速度を標準から自動検知に切り替える。

 即座に、システムが速度を検知。

 512倍で安定する。

 通常の生体ではあり得ない反応速度だった。

 システムが充分なバッファを確保して、サンディの感覚にバイパスする。

 あり得ない程の神経伝達信号速度を疑似体験しながら、サンディは、目的の信号を掴んだ。

 嵐の右腕の制御信号に強制割り込みを掛けた。

 それだけで、ハックツールが悲鳴を上げる。

 これは・・・逆ハック!

 CS側のサンディのボディイメージの右腕に、黒い紋様がインプラントのラインから入り込み食い付いてきた。

 CSの感覚ですら一瞬で、サンディの右腕が肘まで持って行かれた。

 緊急パージで右腕をネットワークから切断。

 更に、紋様がサンディの右肩に侵食。

 これは、逆ハックじゃない。

 オーバーフロー気味のバッファからの感覚同期だ。

 相手に対して行っているハックがそのまま自分に返ってきている。

 嵐の感覚をサンディは共有させられていた。

 リアルサイドではシンが嵐の掌底を受けてのけ反っている。

 そして、サンディは右の視覚でザッハと視線が合う。その前に、銃口が突き付けられた。

 ザッハのバイザーに無表情な嵐の顔が写り込む。

 それが一瞬自分の顔に見えた。

 いけない、こんなのを感覚共有していたら!

 サンディは全感覚を緊急パージしようと・・・

 ザッハは容赦なく引き金を引いた。
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