ひと夏の守護天使
 時間感覚が大幅に引き伸ばされ、強引にハーフライドからフルライドに引き上げられた。

 全ての会話はデータの直接のやり取りとなり、記憶の時系列が意味を成さなくなる。

「少しあなたの情報空間を借りるわよ」

「ドローンからのデータの引き上げは終わったの?」

「七割くらいでドローンがクラッシュしたわ。それで、ここに間に合った訳」

「良いんだか悪いんだかね」

「そのお陰で良いタイミングに来れたみたいよ」

「じゃあ、良いんだね」

「データじゃ無くて、実物をいただきましょう」

「でも、手強いわよ」

「何か特徴はある?」

「そうね、感覚的には、あの中はここと同じくらいの時間速度って感じね」

「全身がハードワイヤードされてるって事?」

「それより達は悪い。単純に有機的なネットワークがそのままの状態で速度を上げたような感じよ。例えるなら、不安定で高速振動している深海の底って感じね」

「なかなか気持ち悪そうね。そろそろ時間のリソースが尽きてきてる。サンディは、リアルの仕上げをお願い。こっちで何とか押え込んでみるわ」

「了解、気を付けて」

「そっちもね」

 会話にすればこうなったであろうデータの瞬きが行き交う。

 リアルサイドでは、ザッハが暴発したライフルを投げ捨て、スタングレネードを投げつけていた。

 佐織は、スタングレネードの爆発に合わせるように、するりと嵐の感覚系に潜り込んだ。
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