ひと夏の守護天使
 フルライドで情報空間に浸かっている佐織にとって、時間というのは薄い皮膜を何層も重ねていく作業に似ていた。

 その作業は止められないが、皮膜は極限まで薄くすることは出来た。

 最初の一秒で、少女の右腕の制御を抑えた。

 即座に、その膨大な情報速度がフィードバックし、感覚同調しようとする。

 だが、フルライドしている佐織の身体感覚は擬体信号に過ぎない。

 感覚を切ってしまえば、どうということはない。

 佐織は、そのまま高速振動する神経の流れに身を任せ、身体情報を探った。

 それは、未知のネットワークだった。

 人の身体情報とは似て異なるもの。

 ハードワイヤードによる身体操作能力の向上とも違う。

 一見無防備だが、何かがおかしい。

 右腕の制御も完全に抑えたわけではない。

 神経の伝達速度を抑えて、麻痺に近い状態に出来るくらいだ。

 右腕の身体操作の神経伝達信号は抑えているはずなのに、完全に右腕の動きを止められない。

 まるで、別の・・・

 そこで気付く、そうだ、神経ネットワークが複数存在してるのなら、バックアップラインのようなものがあるのなら、この現象に納得がいく。

 もしかしたら、この少女の身体は、多重ネットワークによる分散処理により身体動作速度を向上させているのだろうか。

 それならば、副脳というべき神経の集積層があるはずだ。

 そこがハブとなって、情報を再配分しているはず。

 全身を纏う黒いローションが無数の糸を飛ばし、神経ネットワークを探る。

 右腕から医療用インプラント端子まではクリアにマッピングされた。

 この間に、ハブとなる副脳があるはず。
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