ひと夏の守護天使
 進入して、二秒が過ぎた。

 右腕の制御信号で麻痺を維持させつつ、筋組織に送られてくる動作信号をモニターする。

 信号にローションの糸が絡みつき、その後をたどる。

 佐織は、身体イメージを切り離し、判明してきた神経網をマッピングさせた。

 黒いローションが次々と細い糸となって、半透明な身体イメージの内部に神経網を描き出す。

 そして、それはあった。

 右肩の付け根に、神経の集合する塊がある。

 ローションの黒い糸は、そこを足がかりにして、一瞬で全身に行き渡った。

「これは何?」

 思わず佐織は呟いた。

 そこに現れたのは、立体的に描かれた精緻で抽象的な図形の集合体だった。

 まるで集積回路の配線を見ているようだ。

 身体情報の流れは解るが、手持ちの身体ハックツールでは、それ以上の解析は出来なかった。

 さらに左肩にノードがあり、そこから少年の身体にバイパスされていた。

「これは、プロトコルが違うけど、医療用インプラント端末に似ているわね」

 その部分の情報圧が高い。

 何か、高速な情報のやり取りがなされているようだ。

 まるで、今の自分のように・・・

 少年に対してこの少女が、ボディハックを試みている?

 もしそうなら、そこでプロトコルの変換をしているはず。

 ならば、この精緻で高速な身体ネットワークのプロトコルをこちらの身体ハックツールで解析できるかもしれない。

 佐織は、そこにハックを仕掛けた。
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