ひと夏の守護天使
 佐織はそこから推論回路で原因を特定しようとした。

 光の柱は今だ増大し、建物があった場所を中心に、島の南側一帯を飲み込む。

 更に、上空から降下してきていたミサイルの弾頭も、光柱に飲み込まれ爆縮した。

「爆心の推定温度は700万度、光柱半径482メートルで安定、放射線の観測は無し、輻射熱も観測されず・・・これは何?核爆発でも火山の噴火でもない。それにこのエネルギーはどこから来ているっていの」

 推論回路も佐織も、物理法則を無視した観測データで混乱した。

 システムが答えを求めて、暴走し、MPUパワーを無制限に要求してくる。

「佐織、ファイルXの閲覧を許可する」

 グレッグがボイスコマンドで、佐織とシステムに極秘ファイルの閲覧の許可をする。

 システムが許可を受けて、ファイルを引き出す。

 その内容が、推論回路に流れて、システムは必要条件を満たし、MPUパワーが安定する。

 推論回路が、その結果を佐織にささやく。

 それが今作戦最後のシステム運用となった。

「現時点を持って作戦を終了とする。取得データのみパッケージして物理保存、その他の電子情報は作戦ログを含めて破棄、撤収する」

 グレッグが宣言すると作戦のシステム責任者である佐織の権限を無視して、システムが処理を始める。

 佐織は自分の仕事の終了を確認し、全感覚オペレートを解除、緩衝ジェルに満たされたサイバーポッドを開いた。

「チーフ、あれがそうなんですか?」

 ジェルをバスタオルで拭いながら、言った。

 ウエットスーツに似た、黒いボディスーツが、肉感的なプロポーションを覆っている。

 グレッグは、サンディの端末が最後に送ってきた目標の映像を思い出した。
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