ひと夏の守護天使
 排他結界で守られた麗希と嵐以外の物質は吹き飛ぶ。

 麗希は暖かい光の闇に満たされた中で、ゆっくりと目を開けた。

 そこに、嵐の顔があった。

 白磁のような肌に細かい呪文が浮かび上がり、青く明滅している。

「嵐・・・」

 麗希はそっと呟く。

 嵐は神秘的なアルカイックスマイルを浮かべ、そっと麗希を抱き寄せる。

 麗希も腕を嵐に回す。

 そこで気付く。

 左腕の肘から先が無い事に・・・

 急激な喪失感が、麗希を襲う。

 だが、不思議と痛みは無かった。

 肘から先に、光の粒が集まり、傷口を覆っていた。

「大丈夫、あなたは私が守ります」

 初めて聞く声が、頭に響く。

 それと同時に、嵐が何をしようとしているのかが、記憶の中から理解できた。

 天脈変換は、その膨大なエネルギーを暴走させないため、主を守るために嵐が行使する方向を決める。

 主である麗希を守るため、嵐は、麗希の左腕の再生を選んだ。

 しかし、天脈変換を維持できる時間内で、失った左腕を再生する事は、出来なかった。

 天脈変換のエネルギーでも、無から有を作り出すことは出来ない。

 嵐は遺伝適合のいい素材を接いで代用とする事を選んだ。

 すなわち・・・

 片腕となった嵐はゆっくりと気を失った麗希を右腕で抱きかかえ、光重子に包まれながら光柱と共に消えた。
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