愛は惜しみなく与う⑦
確かにそうなのかもしれない


もう自分がどう言ったやつだったのかさえ分からない。



今は無理矢理連れて帰りたいと思わない

何か大きな塊が自分の中から無くなった気分だ


「なんかスッキリした?」

「あぁ。死んだとおもったらスッキリした」

「死んでへんけどな」


パンパンと服をはたいて、杏は水瀬の方へ行く。追い詰めてた2人と一緒に居て杏は、どういう感情なんだろう。

どうして助けたんだろ

水瀬はどうして動かされたんだろう


人のことなんて気にもしなかったし、どうでも良かったのに、気になる。


チラチラと杏を見れば心がピリピリと痛む


自分でやったくせに
自分で力任せにしたくせに


杏の首元にくっきりと浮かぶ、自分の手の形の痣が怖かった


肌にこれほどまでに痣が浮かぶなんて



自分の身体で身をもって体験してきたことなのに。


どうしてそれを、杏にしてしまえたのか、怖くなった


結局俺は……何も無い空っぽの人間だった


経験も知識も蓄積されない


思いたった時の感情だけで動いて



「今は味方や思ってええねんな?」



杏が水瀬に話しかける声は、かすれていて、上手く声が出せないみたいだ

< 165 / 404 >

この作品をシェア

pagetop