愛は惜しみなく与う⑦
杏は屋上から見えている場所を指差す


「二階の屋根に移ってジャンプすれば、たどり着くやろ。あの場所からあっちの方いけば、この建物の入り口に繋がる場所に抜けれるやろ」

「えらく詳しいな」

「鈴が半年前拉致られた時に、この辺りのことは調べ尽くしたから」


表情一つ変えずに杏は二階の屋根にいち早く飛び降りる


「うん、大丈夫。こっちきてええで」


足場を確認して俺たちを呼ぶ

水瀬は俺を立ち上がらせて、先にどうぞと言った。


不思議だな
どうして2人とも助けるんだろ


言われるがまま二階の屋根に飛び移る


この廃墟は東側は崖で囲われるようになっている。二階の高さなら、ちょうどその崖に飛び移れる。


「助走つければ届くのか?」

「多分。あたしは跳べる自信しかないけど、あんたらは?」


3メートルくらい間があいている

助走できる距離も少ない


なんせ失敗して落ち方が悪けりゃ死ねる高さ


このまま飛び降りようかな


でもこれくらいの高さじゃ、生き残ってしまう可能性もある。だから渋った


すると程なくして、俺たちがさっきまでいた屋上の一部が崩れた

老朽化したこの廃墟が、あの爆発に耐えられるわけがなかった
< 167 / 404 >

この作品をシェア

pagetop