愛は惜しみなく与う⑦
「やば!すぐにここも危なくなるし、行くで」
崩れていく屋上を目を細めてみて、杏は後ろへさがり、助走をつけて
跳んだ
その姿はまるで、羽でも生えているのかってくらいに、軽やかだった
天使
そう思った
でも俺を迎えにくるのは天使なんかじゃない
悪魔だ
「先に行け」
水瀬の肩を押すと、戸惑った顔をしたが、その距離を飛び越えた。
向こう側で杏と水瀬が不安そうにこっちを見ている
これでいい
俺はここを越えない
3メートルの距離
でも俺にとっては何百メートルも離れているような感覚だった。
どうあがいても届かない
「サトル?」
俺をみて、名前を呼ぶ
サヨナラだ
この独りよがりの感情もここに捨てよう
穏やかな気持ちのまま終わろう
少しすればまた、壊したい衝動がやってくるから。殺したいと……もう思いたくないから
「……飛べるやろ?」
大丈夫
ようやく眠れる
この3年……杏を思い生きた
生まれてから初めて、この3年で生きてることを実感した