愛は惜しみなく与う⑦
だから終わりも……


杏を思いながらがいい



何かに引火したのか、俺たちのいる方の病棟が、大きな音とともに揺れた



「サトル!!」


水瀬が手を伸ばす



こいつは……そういえばずっと傍に居たなぁ。なんで水瀬は離れていかなかったんだろう。

金があるからかなって思ってたけど。


そんな顔、俺に向けるんだな


切羽詰まった水瀬の顔は、愛に自殺するなと、説得していたときの……あの時の顔と同じだ


ガラガラと後ろで何かが崩れる



これでいい



最後に杏をみて、目を閉じた



笑った顔を最後に見たかったな



初めて出会った時に、俺だけに向けてくれたあの笑顔…


もう一度見たかった



ふわりと風が前から吹いて、汗をかいた身体を冷やした



あれ、なんで泣いてるんだろう


目を閉じていたけど、涙が溢れてくるのがわかる。


おかしな気分






「逃げるなゆうたやろ」



え?


頬に痛みが走る


驚いて目をひらけば、目の前に杏が居た


あちら側に跳んだはずなのに
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