愛は惜しみなく与う⑦
だからお前は殺さない


杏の意志だから


置き去りにもできた
様子がおかしくなってきたから、自殺でもするんじゃないかって思ってた。


でも今サトルは生きている


杏が生きるように言ったんだろ。


はぁ


大きく息を吐く


「邪魔だ、どいてろ。罪を償う気があるなら逃げずにその辺で待っとけ」


今のサトルから、俺への殺意は感じ取れない。俺だけは何がなんでも殺すって叫んでいたけど。

今はそんな様子でもない。

むしろ……


いや、とりあえず俺は必ず杏を探す。


強い雨のせいで足元はぬかるみ瓦礫を持ち上げる手も滑る。


「杏?どこだ?」


声は絶やさない
きっと杏にも届くから

まずここは、どうなって崩れたんだ?


ぐるりと見渡すが、周りの屋根もくずれている。この下にいて上から崩れてきた感じか?

それにしてもおかしい。あの状況で外に出るか?杏ならきっと、屋上を目指すだろう。最悪飛び降りるって考えに至りそう。

中にいるのは崩れて生き埋めになるかもしれないし…

ましてや杏が崩れてきそうなこんな屋根の下を歩くか?
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