愛は惜しみなく与う⑦
これだけ言いたかった。

話し合えなくても最悪いい。

でもどうしても言わなきゃいけなかった。


綺麗な服を着てこんな朝だというのに、すでに化粧もされたその顔は、母親と呼ぶには若かった。

目の前まで来て、睨み上げる母親の前に立つ。



「あんたが死ねばよかった。その言葉は、一生、杏を苦しめるからな」



それだけ許せなかった
そう言われたから…杏は時々、自分が価値がない物のように話すときがある。

自分を犠牲にしがちなところは、こういう発言によってくる。


そう言った俺を、少し驚いた顔で母親は見た。なるほどな

別に覚えてないって訳じゃなさそうだ。



「杏は愛されてるのにさ、時々自分を卑下した言い方をする時があるんだ。何かするときに、順位をつけて、嫌な役回りも、それなら自分がやるよって…そんな風に言う時があるんだ。

そりゃ母親にそんなこと言われたら…嫌でも思い出すよな。妹じゃなくて私が死ねばよかったって…杏が何回言ったか。

他の誰でもない、母親であるあんたに言われたんだ。それは、1人の人間を殺してしまった言葉だ」
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