愛は惜しみなく与う⑦
説教とかそんなんじゃない。
もはや俺の言葉が届くなんて思ってもいない。

ただ事実を言った


その言葉のせいで、杏の死に対する感情は鈍ったはずだから。
他人の死には敏感で、自分の死には鈍感になった。
むしろ、無茶をしすぎるくらいに。


「みのりさんから聞いた。夢を見るんだってな。分かってたんだろ?目の前にいるのが鈴じゃないって。だから不安になってそんな夢を見たんだろ?

どうして逃げた?どういう気持ちで、妹のフリをする杏に接した?

せめてもの罪滅ぼしとか、そんなこと思ってないよな」


妹がどこまで話したか知らないけど、もう待てなかった。このままスルーできるほど俺は大人じゃない。


「知らないわよ…そんなフリをしてたなんて。それに…杏は…私に言われた言葉なんて気にしていないわ」

「どうしてそう思う?」

「あの人に似てるから。何も堪えないのよ。小さい時からすごく怖かった。大きくなれば、あの人みたいになるんじゃないかって」


さっきも聞こえて来たあの人

誰なのか


「お母様…あの人って誰ですか?」


妹もわかっていないのか不安そうに問いかけると、思わぬ答えが返ってきた。


「お父様よ。貴方の父親。今もどこに居るか分からないような人よ」
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