愛は惜しみなく与う⑦
今は好きにしていたかもしれないけど、昔の杏は自由ではなかったはずだ。

どういうことなのか。

事情も知らない俺が考えてわかることではなかった。


そして無言になり、そろそろ一回志木さんに電話しようとしたとき、部屋に人が入ってきた。


「あ…みのりさん」


そこに現れたのは志木さんのお母さんのみのりさんだった。ここに来た時に俺は世話になった。


「悪いね。あんた達の会話を聞かせてもらったよ。少し…力になれるかもしれない」


みのりさんは鈴をみて、久しぶりだね。そう言って俺の隣に座った。


「私はね、蘭様がここに嫁ぐ前から、ここで働いてるんだよ。だから蘭様のここへ来た当初の様子を知ってる」


皮肉だ

そうみのりさんは呟いた


どういうことだ


「杏ちゃんは、父親に似てるんじゃないよ。杏ちゃんは、蘭様に似ているんだよ。嫁いだ先の夫に認めてもらうために必死だった、あの頃の蘭様は……杏ちゃんにとても似ている」


母親に似てる?

そして俺たちは、みんな知らない、母親の過去を聞いた。
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