愛は惜しみなく与う⑦
どこかの侍みたいな話し方をして、杏は笑顔に戻った。



「きいて、みんな!」



よいしょよいしょと身体を起こせるだけ起こして杏は俺たちをみた



「あたし、退院したら、母上と話してみる。納得いくまで。話して……北蓮見を卒業することをゆうてみる。
きっと好きにしろとか、興味ないと言われると思うけど…。てゆうかむしろ、話してくれるか分からんけど。
あたしは自分の言葉で母上と話したことないから。気持ちを伝えたことも、したい事を言ったこともない。

あたしはまだ、自分の母親とまともに話したことがない。

心残りはそれや。いま東堂を離れたら、いつか後悔しそう。だから…


待ってて?あたしが帰ってくるの。今度は嘘じゃない。約束するから」



自分の親と話したことがない、か

その親のためにやってきたことも沢山ある。しんどいよな

これで杏が納得して自由に過ごせるなら




「わかったよ。ずっと待ってる。杏が帰ってくるまで待ってるよ」




こういうので精一杯だった。

隣の朔もぐっと言葉を飲み込んだ。言いたいよな。そんな奴放っておけよって。
誰も気持ちは同じだ。でもそれをするかしないかは、杏が決めることで。
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