愛は惜しみなく与う⑦
「何?泣いてるの?杏は優しいね」


サトルは泉からヒョイと顔を出して杏様を視界にとらえる。

不愉快だ


「志木さん。下がっててくれ」


振り返った泉を見て驚いた。催涙スプレーで完璧にやられていたはずの目は、普通に開いている。そして怒りに溢れた顔。

彼に任せましょう


杏様を支えて後ろに下がる

泉は切ない顔で杏様を見ていた

その後ろ



「危ない!」



サトルの手には、光るものが



「おいおい、お前もせっかちだな?」



後ろを向いていたのに即座に反応する泉。
サトルのナイフを持つ手をかわして、開いた方のサトルの身体に、自分の肩を押し付ける。
そのまま泉は右足を軸に、サトルのナイフを持っていた方の腕を肩にかけて

そのまま背負い投げをした


スローモーションに見えるくらい


完璧な動き




物凄い音が響いた



腕の中にいた杏様はパチパチと瞬きをして、我に帰ったのか…涙に濡れた顔のまま、私に抱きついてきた

そして耳元で言った



「サトルに初めて会ったあの日の事件で、鈴は…ずっと、お姉ちゃん助けてって…言ってたんやって」


切なくて
胸が押しつぶされそうだ
苦しい…鈴のその時の様子が、分かってしまうから。
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