会長のお気に入りかよ‼-百花繚蘭-【完・番外編追加中】
怖い。顔があげられない。湖蘭さんの顔を見てしまえば、表情から答えがわかってしまいそうで。
「……そのために湖月は記憶をなくしたのです」
「………」
「湖月がおじさまとおばさまを実の両親だと思い込んで、周囲もそれに加担しました。自分たち家族は事故に遭ったけど、みんな無事だった。それが湖月の真実となったと、誰もが思っていました。ですが湖月が中学生になって……欠けた記憶があることがわかりました。事故の前後の記憶がない、と。――朝宮さん」
湖蘭さんが俺の名前を呼んだことで、顔をあげざるを得なかった。
うつろになってしまいそうな視界に、畳に手をついて頭を下げた湖蘭さんがいた。
「どうか、湖月にこのことは話さないでください。戸籍などを見ればいつかはわかる話ですが、それはおじさまとおばさまが決めた時だとみな思っています。湖月に記憶がないのはいたわしいことですが……記憶をなくさなければならないほど、湖月にその現実は辛いものなのです。ですからどうか……どうか……」
懇願するような湖蘭さん。
気づけば、時さんも俺に向かって頭を下げていた。
………。
「……こーちゃん、俺のことも忘れていたんです」