冬の花
最近、めっきり公衆電話を見なくなった。

もしも、の時の為に、
私は事前に公衆電話の場所を確認していた。

私の住むマンション近くの公園の前に、
電話ボックスがあった。

壊れていなくて、使える事も何度も確かめている。

今の私はスマホも持っているけど、
それは使わない。

もし。

もしも、また阿部さんに連絡を取る事があるのならば、
公衆電話からにしようと決めていた。

極力、私と阿部さんが関わった形跡は残さない。

ダイヤルを押す手が、震えた。

あの紙に書かれた番号は、
阿部さんの携帯番号だろう。

ダイヤルを押し終えると、
プルル、とコール音が鳴る。

なんだか怖くて、体が震えた。

私は落ち着きなく、追加で10円玉や100円玉を何枚も投入した。

こんな時間だから、阿部さんは眠っているかもしれない。

そもそも、この番号は本当に阿部さんの番号なのだろうか?

もしかしたら、間違えてダイヤルを押したかもしれない。

コール音が鳴る度に、緊張感が増す。

コール音が止まり、相手が電話に出たのが分かった。

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