冬の花
「そう言えば、うちの母親、昔は散々お前と遊ぶなとか関わるなって言ってた癖に、
お前が女優になってテレビに出だした瞬間、
正月、集まった親戚の奴らに息子の幼なじみなの、って自慢しまくっててさ」

そう言う佑樹の表情が歪んでいて、
てっきり佑樹は母親の事は大好きだと思っていたので、意外だった。

「あのさ、ずっと訊きたかったんだけど、
どうしてうちの事務所に来たの?
たまたま就職した芸能事務所に私がいた、ってわけではないでしょ」

「当たり前だろ。
お前がどの事務所に居るか知ってたし、
お前が居るから、エムアイプロに就職した。
もっと言えば、別に芸能界の仕事なんか一切興味無かった」

「なんで、私に拘るの?」

そう訊くと、佑樹はニヤリと笑い、
お前をまた昔みたいに苛めたくなったから、と答えた。

「けど、一個だけたまたまなんだけど、
俺、昔アイドルにスカウトされたんだけど、
その事務所がエムアイプロなんだ」

そう言われ、昔、近所のおばあさんがそんな話をしていた事を思い出した。

何処で聞き付けたのか、
イケメンが居ると東京の芸能事務所の人が、佑樹をスカウトしに来たのだと。

「私も噂でそれ聞いた。
佑樹はなんで芸能界に入ろうと思わなかったの?
マネージャーじゃなくて、自分がテレビに出る側に」

こうやって佑樹と向き合ってみて、
華やかで人から注目されるのは私ではなくて、
佑樹なのに、と思った。

なんで、この人の方が、私のマネージャーなのだろうと、不思議に思う。

「芸能界なんて、って直ぐに父親が怒ってその人達を追い払ってたよ。
そうじゃなくても、俺はいいや。
もうこれ以上、誰かに誰かと比べられたりしたくない」

そう語る佑樹に、
そんな部分があるのだと思ってしまった。

私が思っていた以上に、
優秀な兄と比べられて苦しんでいる。

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