冬の花
「それはどう言う事ですか?
あの家がないって?
佑樹が言ってた。
あの家を調べたら父親の血痕とか見付かるんじゃないかって」

そう佑樹は、私を脅した。

「その佑樹君本人が、あの家に火を点けたんだよ。
ほぼ全焼で取り壊したんだよ。
佑樹君が高校3年の時」

「佑樹が?」

佑樹が、あの家を燃やしたの?

「受験勉強でむしゃくしゃしててやったんだろうって、彼の父親が言ってた。
あの家は彼の家の持ち物で、近所の家に被害も無かった。
だから、ただの火事で処理して欲しいって言われて。
彼の父親、方々に顔が利くから。
さっき、彼自身も言ってただろ?
高校三年の時、ちょっと色々あって、勘当されたって」

そう淡々と語る阿部さんに、
なんとも言えない不信感を抱いた。

「知っていたんですね?」

佑樹があの家に火を点けた事。

阿部さんとあのサービスエリアで会った時、
私はその事を話した。

佑樹に、あの家を調べたら、と言われた事を。

なのに、阿部さんはあの家を佑樹が燃やしてもう無い事を、
何故教えてくれなかったの?

「俺、昔あかりちゃんに、
佑樹君はあかりちゃんが好きなんだ、って言った事あったよね。
今となっては、あれは忠告になったわけだ」

阿部さんは、ゆっくりとこちらに歩いて来る。

私は何故かそんな彼が怖くて、逃げるように後ずさってしまう。

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