冬の花
「桑田つぐみは彼女が学生の頃から使っていたペンネームで、
今回の《最後の涙》は、彼女の作品だよ」

原作者の桑田つぐみが脚本家を鳴海千歳に拘った理由は…。

「今回、映画化で顔合わせの時に会ったくらいで、
挨拶程度しか彼女とは話していないけど」

その顔合わせには、私も居た。

原作者の桑田つぐみは、
小柄で美人な人だった。

私も桑田つぐみとは挨拶くらいの会話しかしていないので、
彼女の事はよく分からない。

「ドラマ化の時は、うまく話が流れて、
彼女に会わずにホッとしてたんだけど」

そう言えば、ドラマ化の時は、保田美憂とプロデューサーの不倫騒動が有った事を、思い出した。

「学生の時からの友達に、マスコミ関係の奴が居て、
そいつと食事した時に、いつか君にしたように保田美憂の不倫の話をしたんだ」

「鳴海さんが、リークしたんですか?」

「ただ、あのドラマの話が消えればいいって思った。
彼女からぜひ俺に脚本を、と言われていると聞いて、怖くて仕方なかった。
彼女は何を企んでいるのだろうか?って。
俺に脚本を書かせて、どうしたいのだろう?って。
そのうち、俺が盗作したのだと誰かに話すんじゃないかって…。
彼女を怒らせる事が怖くて、その申し出を断る事も出来なかった。
だから、あのドラマの企画がなくなればって…。
そんな俺の勝手で、保田美憂をあんな風に追い込んで…。
保田美憂には、本当に酷い事をしたと思っている」

保田美憂は、鳴海千歳がリークしたその不倫スキャンダルを苦に、
自殺を図った。

幸い、それは未遂に済んだけど。

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