冬の花
「どうして、そんな話を私にするのですか?」

きっと、自身が盗作した事なんか、
誰にも話したくないはず。

それに、その事が原因で、
二人の女性を自殺したいと思わせたなんて。

「なんでだろう…。
ずっと自分の中でその事が有って、苦しくて…。
君の事こうやって抱きしめていたら、
妙にその苦しみが和らいで」

今の私と同じように、この人も感じているんだ。

この温もりに、安心する。

「もっと根本的な理由かな。
俺は、君が好きだから。
君に話したくなったのかもしれない。
こうやって君と話せるのは、今が最後かもしれないから」

私が顔を上げて、鳴海千歳を見ると、
同じように私を真っ直ぐと見詰めていた。

「私は殺人犯かもしれないのに?
それを分かってて、私を好きなんですか?」

鳴海千歳が、私が本当に父親や佑樹を殺したと思っているのか、そうじゃないのかは分からない。

だけど、その二つの事件に私が無関係ではない事は分かっている。

何かしら、私が罪を抱えている事を。

「殺人犯を、好きになってはいけないの?」

その言葉に、阿部さんの顔浮かんだ。

私は彼がその手で人を殺す所を二度も見ているのに、
今もこんなにも阿部さんを思っている。

そうやって阿部さんを思いながらも、
目の前のこの人にも惹かれてしまっている。

もしも、運命の相手が私に居るのならば、
直感的にきっとこの人だったのだろうと思う。

もっと、違う人生の中で鳴海千歳と出会いたかった。

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