冬の花
監督に続いて、脚本家の鳴海千歳が話し出した。

「今回、桑田つぐみさんの小説《最後の涙》を映画化するにあたって、脚本を書かせて頂きましたが、
今までで一番良い物が書けたと、思いました。
そして、監督の三村さんや演者の皆さんがさらにより一層作品を良い物へと作りあげました。
完成された物を観た時…。
やはり、自分の力だけではこの場所には居なかったのだと、思い知らされました…」

鳴海千歳はそこで言葉に詰まり、
マイクを下ろした。

観客は、その鳴海千歳のスピーチの意味をそのまま解釈し、拍手をしていた。

私は、夕べこの人から盗作の事を聞いたから、
分かる。

盗作したデビュー作と同じように再び桑田つぐみの作品に触れ、
彼女の才能を改めて思い知らされたのだろう。

彼女の才能を盗んだからこそ、
今の成功があるのだと。


鳴海千歳はオリジナルだけではなく、
今まで原作のある作品の脚本を書いている事もあったけど、
明らかに今回の作品とはそれらは違う。

桑田つぐみの小説と鳴海千歳の脚本は、
本当に、お互い足りない物を補っていて、
その二つが重なると、単純な1+1=2ではなく、
それ以上になる。

私は、舞台そでに視線を向けた。

そこには、桑田つぐみが居てこちらを見ている。

原作者の彼女は舞台挨拶には出ないが、
今日の朝急遽見学したいと、こちらにやって来た。

夕べ、鳴海千歳から話を聞いた後だから、
私も気にしてちらちらと桑田つぐみを見てしまう。

朝から思っていたが、桑田つぐみは鳴海千歳の事もそうだけど、
特に、私の事をよく見ていた。

目が合うと、何かを企むように笑みを浮かべている。

きっと桑田つぐみも、私と鳴海千歳の業界内で噂されている関係を知っているのだろう。

彼女が私をそうやって見ているのは、
嫉妬なのだろうか?



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