冬の花
私の挨拶の順番が回って来た。

「今回、主演の岡田あかりさんです」

司会の男性に促され、私は持っていたマイクを口に近付けた。

言葉を発しようとした、その時。

目線の先にある、映画館の後方のドアが1つ開いた。

そのドアを開いたのは、阿部さん。

戸惑う私と同じように、
観客もザワザワとしている。


阿部さんは、警察手帳をこちらに見えるように掲げた。

「K県警です。
岡田あかりさん、あなたの父親である増田信吾(ますだしんご)さん殺害の容疑で、署までご同行願えますか」

その言葉に、マイクをそっと下ろした。

手から力が抜けたのか、それは床へと転がり落ちた。

阿部さんのその姿を見て、私は喜びのような物を感じた。

逮捕されるなら阿部さんに、と思っていたのもそうだけど、
なによりも、もう一度こうやって会えた事が嬉しかった。

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