冬の花
阿部さんが拳銃の引き金を引く瞬間、
私は鳴海千歳の体を押した。

場内に響く、大きな音。

何か爆発したような大きな音。

それが銃声なのだと、暫くして気付いた。

私と鳴海千歳は床に倒れていて、
赤い血が床に広がって行く。

館内中、大きな悲鳴があちこちから上がる。

「…痛い…」

鳴海千歳は、銃で撃たれた左腕を、
もう片方の手で押さえていた。

阿部さんは私達を見下ろし、
鳴海千歳に銃口を向けた。

「阿部さん、辞めて!
お願い…この人を殺さないで…」

私の目から、涙が溢れて来る。

もし、鳴海千歳が死んだらと思うと、
もう私は生きて行けないと思った。

阿部さんは、私が鳴海千歳に全てを話したと思ったのだろう。

だから、鳴海千歳を殺さないといけないと思った。

それは、きっと、私を守る為に。

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