冬の花
「岡田あかりは、俺の物だ。
お前らよりも昔から、俺は彼女を知っていた…。
ずっと、俺はあかりを見て来た」

「阿部さん…」

阿部さんらしくないその言葉に戸惑いを感じる。

「俺はあかりを守っただけなんだよ。
あのくそ親父から。
あいつがあかりに暴力を振るっていた事は、あの村の奴ら殆ど知ってた。
なのに、誰も助けないから。
だから、俺が助けたんだよ。
あの日…」

あの日…。

この場で、阿部さんはあの日の事を話す気なのだろうか?

「あの日、雪が凄くて、パトカーで村中を巡回していた。
すると、あかりが家から出て行くのが見えた。
こんな雪の日に何処に行くのだろうか?って思った。
そして、あの日は大雪で誰も外を歩いていない。
あかりが出て行った今、あの家にはあの親父が一人なんだろう、と思った。
あの親父を殺すなら、今しかないって思った。
俺はパトカーを止め、あの家に入ると、あの親父を突き飛ばして殺した。
あかりが帰って来る前に、あの父親を」

「嘘。
なんで阿部さんそんな嘘付くんですか?」

あの日は、そうじゃなかった。

おつかいの帰り道に、私はパトカーで巡回している阿部さんに会った。

そして、パトカーで私は家まで送って貰い、
そして…。

阿部さんが私の父親を殺し、私はそれを見ていて、
父親の遺体を阿部さんと一緒にあの湖に捨てた。

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