冬の花
「そしたら、ちょっとした騒ぎになって。
《最後の涙》も、公開延期から公開未定になってしまって…。
今も、どうなるのかなぁ、って状態で」

「その頬は?」

「そうなって、彼女…桑田つぐみに俺は謝罪しに行ったんだ。
今回の映画が公開未定になってしまった事もそうだけど、過去の盗作の事も。
それが、昨日の事なんだけど」

「そんなに怒っていたのですか?」

鳴海千歳の頬の腫れ方は、
女性が少し殴った程度ではない。

「うん。
『よくも人の作品を曰く付きにしてくれたわね』って殴られた。
ドラマ化が不倫騒動で流れて、からの映画化で舞台挨拶の事件で、俺のその公表で…。
世間では、《最後の涙》の映像化は不吉な事が起こる…みたいになってしまって」

今まで頭になかったが、桑田つぐみさんには、本当に悪い事をしたな、と思ってしまう。

舞台挨拶での事件は、私のせいだから。

「流石に、保田美憂の不倫をリークしたのが俺だとは、とても言い出せなかったよ」

そう口にして、

「保田美憂、サッカー選手の田中と電撃結婚したみたいだね。
今朝、テレビでその結婚の会見やってて、過去の不倫の事とかあっけらかんと語ってて、
今とても幸せそうみたいで、少しホッとした。
彼女にも謝罪しないと、と思っていたけど、
もうあの事を蒸し返さない方がいいだろうね」

鳴海千歳のその話を聞いて、
保田美憂の幸せそうな笑顔が頭に浮かんで、笑みが溢れた。

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