冬の花
「今回の事件とは関係ないけど、
彼の本当の母親は自宅アパートでの転落事故で亡くなってるらしいけど、
それももしかしたら、って噂されている。
阿部隆生は、生まれながらのサイコパスなんだろうって」

「違う…阿部さんはそんな人じゃ…」

そう言いたいけど、私は阿部さんの事をよく知らない。

あの人の、私にとって好きな面しか見ようとしていなかった。

あの人が人を殺す所も見ていたけど、
それを見ないようにしていた。

「せめて、私が彼を好きな事だけでも伝えたかった」

きっと阿部さんは、私が思っていた事を知らないだろう。

もしも、あの大雪の日、
パトカーで送って貰った時に私がその思いを伝えていたら、
どうなっていたのだろうか、と何度も考えた。

そのまま、私の気持ちに困って、私を遠ざけたかもしれない。

もしかしたら、私の気持ちに応えてくれて、
もっと違う形で私を救いだしてくれたかもしれない。

もしも、もしも、と考えてしまうけど、
そのもしも、は二度と訪れない。

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