冬の花
「鳴海さんは、私に聞かないのですか?」

「何を?
携帯番号を?」

そう言われ、首を横に振った。

「本当の事。
あの日あの雪の日、阿部さんは私の目の…」

その言葉を遮るように、
鳴海千歳は私に唇を重ねて来た。

それは、触れただけだったけど、
私は驚いて言葉が止まった。

「それは、聞かない。
彼が死んでも守りたかった秘密を、聞けない」

私は少し考え、そうですね、と頷いた。

なら、私はその秘密を守り抜かないといけないのだろう。

「この先の人生、一緒に行こう」

そう差し出されたその手を、
私はゆっくりと両手で掴んだ。


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