冬の花
「…いったぁ…」


阿部さんは漏れるような声でそう呟くと、立ち上がり、
父親に掴みかかっていた。


「…辞めて!」


私はそう声が出たが、体が動かず、その場面を見ているしか出来なかった。


頭の中で、警察官の阿部さんが一般人にこんな風に暴力をふるったらどうなるのだろうか?


大変な事になるんじゃないだろうか?


色々と、考えていた。



その出来事が起こったのは一瞬。


阿部さんは父親を両手で掴んでいたが、
次の瞬間にはその手を離していた。


それは、強く突き飛ばすように。


そして、父親の体はそのまま勢いよく倒れて行き、
父親の後頭部がテレビ台の角に強くぶつかった。


それは、驚くくらい大きな音が出た。


父親は驚いたように両方の目を大きく開いたまま、仰向けに倒れていて、
頭からは大量の血が出ている。


それは、居間に敷いている厚手のラグに染み込んで行く。


ラグが、一瞬で赤くなって行く…。



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