冬の花
「…あ…、救急車…呼ばないと…」


そう言って、居間にある電話を見るが、
料金未払いでもう数ヶ月前から止まっている。


「もう、死んでるよ。
殺したんだから」


阿部さんはそう言って、近くにある座布団数枚を父親の頭の下においていた。


一体何をしているのだろうと、私はただ呆然とその阿部さんの行為を見ていた。


「ラグの下の畳に、このままじゃ血が付くから。
もう多少は付いたかもしれないけど。
大きなレジャーシートかゴミ袋とかある?
これ以上血が広がらないように下に敷くから。
証拠はなるべく残さない方がいい」


阿部さんは冷静な表情で、何かの作業のように手を動かしている。


まるで、人を殺したと分かっていないのか。


「…お、大きなブルーシートが確か押し入れにあったと思います…。
取って来ます…」


私は震える足で、隣の部屋へと入る。


部屋に入った瞬間、足が縺れてこけてしまった。


一体、何が起こったのだろうか?


本当に、あの優しい阿部さんが、私の父親を殺したのだろうか。

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