冬の花


車内は静かで、先程雪の中を送って貰った時とは違い、会話が全くない。


一体何を話していいのか分からなくて、私から阿部さんに話し掛ける事はない。


阿部さんの方から何か話して欲しいけど、
車に乗ってからずっと口を閉ざしている。


この車は一体何処に向かっているのだろうか?


そう思い車を運転する阿部さんを見るが、
目が合う事が怖くて直ぐに視線を反らしてしまう。


窓から見える景色は暗闇と吹雪きで真っ白で、
殆ど見えない。


この雪のおかげで、誰にも見られずに父親の遺体を家からパトカーに運べた。


そして、今だって一台も他の車とすれ違う事が無くてほっとしている。


父親が死んだ今、この世の中には私と阿部さんだけしか居ないんじゃないかと思うくらい、誰も居ない。


心の隅で、本当にこのまま阿部さんと誰も居ない世界に行きたいと思う。


今日の事も、誰にも知られる事もなくて…。


< 34 / 170 >

この作品をシェア

pagetop