冬の花



「おはようございます」


私はテレビ局の廊下ですれ違う男性に、そう声をかけた。


「えっと…、確か…」


私の父親と年が変わらないくらいであろう男性は、
首を捻って私を見ている。


彼の名前は橋田(はしだ)さん。


「岡田あかりです。
以前、橋田さんには深夜ドラマの時にお世話になりました」


私は本名のままの芸名を告げる。


私は裕子さんと養子縁組をして、
増田から岡田になった。


「あー、あかりちゃんか。
コンビニ店員の役だったね」


「はい。そうです!」



今から一年前、街でスカウトされた事から、
私は芸能事務所に入る事になった。


そして、今は大学との二足のわらじで女優をしている。


芸能界になんて全く興味がなかったけど、
もし、私が有名になりテレビに出れば、
阿部さんは私をテレビを通して見てくれると思った。


私は彼の姿を見れないけども、
彼は私を見れる。


私の事を忘れないでいてくれる…。


会いたくても会えないから…。


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