冬の花
◇
「おはようございます」
私はテレビ局の廊下ですれ違う男性に、そう声をかけた。
「えっと…、確か…」
私の父親と年が変わらないくらいであろう男性は、
首を捻って私を見ている。
彼の名前は橋田(はしだ)さん。
「岡田あかりです。
以前、橋田さんには深夜ドラマの時にお世話になりました」
私は本名のままの芸名を告げる。
私は裕子さんと養子縁組をして、
増田から岡田になった。
「あー、あかりちゃんか。
コンビニ店員の役だったね」
「はい。そうです!」
今から一年前、街でスカウトされた事から、
私は芸能事務所に入る事になった。
そして、今は大学との二足のわらじで女優をしている。
芸能界になんて全く興味がなかったけど、
もし、私が有名になりテレビに出れば、
阿部さんは私をテレビを通して見てくれると思った。
私は彼の姿を見れないけども、
彼は私を見れる。
私の事を忘れないでいてくれる…。
会いたくても会えないから…。