冬の花
裕子さんと住む為にあの村を離れる日。


こっそりと、遠くから交番を見た。


いつものように交番に立つ彼の姿。



あの夜から裕子さんに引き取られるまで、
わざと交番の前を避けて彼に会わないようにしていた。


だから、これが最後だと、阿部さんを見に行った。


阿部さんは、空を見上げていた。


パラパラと、粉雪が舞っている。


私は後ろ髪を引かれるような気持ちで、
踵を返して歩き出した。


これが、私が阿部さんを見た最後。

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