冬の花
「私が主役で本当に大丈夫なんでしょうか…」


鳴海千歳から話を聞くうちに、
段々と私が主演なのだと実感が湧いて来た。


自信と同じくらいに不安もある。


自分の演技がまだまだ未熟な事も分かっているから。


「その感じを見ると、自覚はあるんだ。
君の演技は凄いけど、けっして上手いわけではないから」


そう言われ、さらに私でいいのだろうか?と聞きたくなってしまう。


「君は俺が選ばなくても、
いつか売れるだろうね。
だから、一番初めに君の才能を俺が見抜いたんだって、
10年後、どこかで語っているかもしれない。
だけど…俺はその頃はもう書いてないかも…」


そこで言葉が途切れたので、
私はそっと鳴海千歳の方を見た。


目を閉じて、座ったまま眠っているように見えた。


えっ、嘘でしょ?と思ったけど、
きっと、それだけ疲れていたのだと思った。


多分、主演が私になり、その関係でも脚本を書き直したり、
売れっ子脚本家である彼はとても忙しいはず。


眠っている彼を見て、少しほっとした。


なんとなく、避けたい所に話が向かっていたから。


最後に彼が口にしていたように、
10年後、この人はもう書いていないような気がする。


夕べ、私はこの人に言ってしまった。


この人の書く物を、いつか飽きてしまう、と。



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