オペラ座の怪人"Phantom"
「ご機嫌よう、マドモアゼル。」
背の高い紳士がトップハットを持ち上げて挨拶してきたのをクリスティーヌは躊躇いがちに微笑み挨拶を返した。
「ボンジュールムッシュー あの、何か御用かしら、?」
クリスティーヌは紳士を見上げた。肩まで切りそろえてあるブロンドの髪を揺らしてこちらに笑いかけてくるこの方は誰?
よく見ると目鼻立ちが整った美しい顔の青年である。
クリスティーヌは思わず頬を染めた。
「僕はフィリップ・ド・シャンドン。お嬢さんのお名前は?」
「クリスティーヌ・ダンエです。ムッシューシャンドン…」
「フィリップでいいよ、クリスティーヌ!」
「では、フィリップさん」
フィリップはクリスティーヌに名刺を差し出した。
「僕はね、あのオペラ座の劇場のパトロンをしている。君の歌声は舞台に立つべき者の声だ!風に乗って聞こえてきた時、僕は震えたんだ。なんて美しい歌声なんだ、まるで天使の声だとね。」
「ま、あ。そんな!私なんて…」
「いいや、お世辞ではない。本当のことさ。だけど、そうだな。舞台に立つにはまずレッスンを受けないとだな…。」
クリスティーヌは俯いた。レッスンなんて、とても受けられるようなお金もつてもない…
「ふむ、そうだ、この名刺を持って支配人のジェラルドという男に渡すんだ。そこで歌のレッスンを受けさせてほしいとお願いしなさい。僕の名を出せば無償で受けさせてくれるよ」
本当は僕が連れて行きたいところなんだけど、今日はこの後用事があるんだ
と残念そうにフィリップが言う。
「君が舞台に立つ日を待っているよ」
フィリップはクリスティーヌの手を取り優しく口付けをした。
ふとフィリップはクリスティーヌの顔をまじまじと見つめる。
歌声もそうだがなんて美しい子だろうと思った。自分のキスに驚き頬をバラ色に染め固まっている彼女を見つめているうちにふっと笑みがこぼれた。
「それではまた会いましょう、クリスティーヌ!」
「フィリップさん!ありがとう、ありがとう!」
フィリップが立ち去る後ろ姿をクリスティーヌは熱い胸を震わせて眺めていた。
(ああ、神様。天国のお父さん!私、舞台で歌いたい。歌いたいわ!)
もらった名称を大切にポケットにしまうと、クリスティーヌは走り出した。