【短】あの夏を忘れない
出逢いは、あきりたりのことだった。
友達に誘われて立ち寄った、居酒屋で。
偶々、混んでいた所に相席となっただけ。
お互い、連れが一人。
そちらは、すぐさま意気投合したらしく、楽しげに盛り上がっていて、私とその人はなんとなく静かに…ただこれ以上酔が回らないように気を付けて、隣同士でバーボンとサワーのグラスをちん、と鳴らし、出逢いに乾杯をした。
「俺は、夏生叶海って言います」
「私は、生沢愛海と言います」
静かに、静かに…。
流れる時間。
グラスを傾ける仕草が妙に色っぽくて、私はその度に動く喉仏に魅入っていた。
「生沢さんは…」
「愛海でいいですよ。私の方が年下みたいですし…」
にっこりと微笑めば、彼は少し驚いたように私を見てから、十分な間を取って、
「じゃあ、愛海ちゃん…は、何度か此処に?」
と尋ねてきた。
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