Sweet break Ⅳ
『だって…それは、私じゃなくてもできるでしょ』

思わずポツリと口から零れたのは、自分の劣等感の塊。

あまりに子供じみた情けなさで、自然と視線が足元に落ちてしまう。

呆れたような小さな溜息が、すぐ先に立つ関君から漏れた気がした。

『…お前にしかできないことならあるだろ』
『私にしかできないこと?』

関君の言葉に落ちていた視線を上げると、職場ではあまり見ることの無い和かな笑みを浮かべる関君に、胸の奥でまた大きな音が響く。

『ああ。ただし、”俺限定”…だけどな』

言いながら、伸びてきた手に右腕を掴まれグイっと引き寄せられると、あっという間に関君の腕の中にすっぽりと包まれる。

『っ…!!』

そのままギュッと抱きしめられ、身動きができなくなる。

『…逃げるなよ』

耳元で、まるで願うような関君の声が聞こえた。

密着していることより、想像よりずっと近くに聞こえた低い声に、思わず身を強張らせてしまうと、途端に関君の力が緩まった。

『嫌か?』
『ち、違う…ちょっと、びっくりしただけ』

そういえば前に、私に触れたいけれど、私に拒まれるのが怖いと言っていたっけ。

いきなりすぎて心の準備が整っていないけれど、我慢でも嘘でもなく、嫌なんかじゃない。

私の言葉に少しホッとしたのか、関君はひと回り小さな私を包み込むように抱きしめたまま、ゆっくりと後ろの自販機に身を預ける。
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