Sweet break Ⅳ
日中は残暑が厳しかったものの、今、目の前の路地を駆け抜ける潮風は、幾分ヒンヤリとしていて心地いい。

歩くたびに強くなる潮の香りを意識しながら、さほど長くない数十メートルの路地を抜けると、突如として現れた、左右に広がる雄大な空と海。

まだ水平線に落ちきれてない陽の光が、水面に反射してキラキラと眩しく輝いている。

『綺麗』
『向こう側に渡るか』
『うん』
 
広めの横断歩道で海岸道路を渡ると、海沿いに設けられた遊歩道の端にある手摺に手をかけ、その眼下に広がる砂浜と海を眺める。

暮れ行く浜では、幾人かのサーファーの姿があり、よく見れば沖にもまだ人影が見える。

『まだこの時間、サーフィンやってる人いるんだね』
『この辺りは花火を打ち上げる海岸からはだいぶ離れてるから、規制がかかっていないのかもしれないな』

夏祭りのフィナーレに、会場近くの海岸で5000発の花火が打ち上げられるのも、今日の楽しみの一つ。

現時刻はまだ16時半を過ぎようという頃だから、打ち上げ時間までは、まだだいぶある。

と、にわかに道行く人が、足早に砂浜に降りたり、歩道の手摺沿いに集まってきた。

どうやら日没が近いようだ。

『下、降りてみるか?』
『ううん。ここで良い』

砂浜に降りて見るより、数メートル高い位置にあるこの場所から眺める景色の方が、より遠くまで広い範囲が望めそう。

何となくその場に立ち止まったまま、その瞬間を待つことにする。
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