Sweet break Ⅳ
『や、やっぱり普通で…普通のでいいかも』
『俺はどっちでも構わない』
『なら、もう一回手を…』
『ただし、上手く外すことができたらな』

言うなり、更にギュッと握り閉めてくる。

これじゃ解こうにも、簡単には解けなくなった。

『…ズルいよ、関君』
『何のことだ?繋ぎ方を変えたいと言ったのは朱音の方だろ』
『それは…そうだけど』
『諦めろ。どのみちすぐ慣れる』

何だか心無しか愉しんでいるような関君は、シッカリ繋いだ私の手を放すことなく、真っすぐ歩を進める。

これはもう観念するしかない。

ふんわりとした海風を左側から浴びながら、自分の手を引く関君を見れば、これが自分の身に起こっている現実なのだと改めて実感する。

触れている手から伝わってくる、関君の温もり。

時々、会話の合間に自分に向ける、穏やかな笑み。

”朱音”

いつの間にか、違和感なく私の名を呼ぶ、甘く優しい声音。

同僚だった頃には知ることのなかった、関君の”特別”に触れる度、ある種の優越感にも似た感情が湧き上がる。

『おい…何、笑ってるんだ?』
『フフ…別に』

”私達、少しは恋人っぽく見えてるよね?”

訝し気にみる関君を横目に、心に浮かんだ言葉は口には出さなかった。
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