Sweet break Ⅳ


『凄い人だね』

夏祭りの本会場は、海から10分ほど離れた駅前を起点に続く、長い商店街。

確かに、今歩いてきた海岸通り沿いにも数店屋台があったけれど、その比ではない。

通り沿い左右にズラリと並ぶ、たくさんの種類の屋台。

よく見れば屋台…と言っても、外部のそれよりも地元の店や地域の人が手作りで催してるものも多く、まさに地域のお祭りといった温かみのある風情が醸し出されていた。

『閑散な祭り程、侘しいものはないからな。これくらいの賑わいが丁度良い』

祭り会場の入口で一旦立ち止まり、長い通りの先を眺めながら、そう呟く関君の声は、いつになく弾んで聞こえた。

確かに通りは祭りを愉しむ人で溢れかえり、活気に満ち溢れ、どの店も人もキラキラ輝いてみえる。

それに、夏祭りということもあって、すれ違う人達の大半が色とりどりの浴衣を着ていて、祭りに華やかさを添えていた。

子供も大人もワクワクするのも当たり前かもしれない。

『私も浴衣、着てくれば良かったな』
『そうか?浴衣じゃそう歩き回れないだろ』
『関君、夏祭りの情緒的な話だよ』

そう訴えてみるも、当の本人は情緒など全く興味が無い様子で、いつの間に手に入れたのか、夏祭りの会場マップを真剣に眺めてる。

『この商店街は全長400mほど続いているらしい。途中の脇道にも何かありそうだし…先ずはどんな店があるか流して歩くか』

独り言のように呟くと、もう丸ごと頭にインプットしたのか、用はないとばかりに持っていたマップを折りたたんではジーンズのポケットにしまい込む。

『朱音』
『はい?』
『迷子にならなように、俺から離れるなよ』

言うや否や、今度はごく自然に私の手を捕り、ごった返す人ごみの中を軽快に歩き出す。
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