Sweet break Ⅳ
『ま、待って未来君、私…やっぱり』

言うや否や、不意に伸びてきた別の手が、未来君の手首を捉え、そのおかげで繋がれていた私の手は、すぐに解放された。

『え…』

未来君と同時に振り返れば、そこには走ってきたのか額にうっすら汗を浮かばせた、関君の姿。

『関さん!?』
『お前…簑島か』

自分が掴んだ腕が、未来君のものだと気付いた関君は、一瞬驚いた表情を見せるも、直ぐに、いつものポーカーフェイスを装う。

『…お前、手を引く相手を間違ってるんじゃないか』
『はい?』
『簑島の相手なら、今頃駅に向かってるぞ』
『っ!!』

関君の言葉に、明らかに顔色が変わると、すぐに商店街の方を振り返る未来君。

関君は、その背に向かって、諭すように続ける。

『いい加減な気持ちなら追うなよ、簑島…ただし』

一旦小さく息を吐き、『本気なら死ぬ気で走って捕まえろ』

未来君は、一瞬こちらを振り返り、黙ったまま会釈をすると、踵をかえして、まっすぐ駅方面に向かって走りだす。

まばらとはいえ、街路に広がる人々を器用によけながら進み、アッという間に姿は見えなくなった。

『あの…関君?』

二人のやり取りを黙って見ていた私は、未来君の走り去った先を見つめる関君の背中に話しかけた。

『関君は未来君の相手って、誰だか知ってるの?』
『朱音』

白いシャツがゆっくりと振り返る。

『簑島のことより、お前こそ今までどこにいたんだ』
『え?…あっ』
『あっじゃないだろ。手を洗うだけにどこまで行ってるんだよ』
『えっと、ごめん。ちょっと道を…そう!道を、間違えたみたいで』
『ったく、携帯にも出ないとか、何かあったんじゃないかって、どれだけ心配したと思ってるんだ』

いつになく真顔で、それでいて安堵の表情が読み取れるのは、真剣に心配してくれていた証拠。

そんな関君をみたら、さっきの、公園で見たことなど、どうでも良くなってしまう。

『ホント…ごめん』

小さな溜息と共に、関君が腕時計の時間を確認する。

『…まぁいい。とりあえず、言い訳は後だ。時間がないから行くぞ』

そういうと、さっき未来君につかまれた手をとられ、何故か花火の上がる海岸の会場に向かう方ではなく、反対側の、山側の通路に歩きだした。
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