Sweet break Ⅳ


関君の手に引かれたまま、いくつかの路地を曲がり、いつしか祭りの賑わいさえ聞こえない、閑静な住宅街に出た。

さっきまで等間隔であった祭りのぼんぼりも無くなり、今はまばらにある街灯の薄明りだけが足元を照らすだけで、辺りは闇に包まれる。

それでも不安にならないのは、しっかりと繋がれた手の温もり。

今日何度も触れているはずなのに、等間隔に打つ心臓の鼓動は、心地いい緊張を与えてくれる。

『関君、どこに向かってるの?』
『着いたらわかる』

有無を言わさぬ強引さで、一度も足を止めずに、歩き続ける。

その様子から、どうやらこれ以上何を聞いても答えてはくれないだろうと確信し、黙って引かれるままについていくことにした。

しばらくすると住宅街の脇道を逸れ、広めの緩やかな坂道を上りだす。

緩やかとはいえ上り坂のため、歩くペースはダウンするも、そう辛くないのは、関君が私の歩調に合わせてくれているから。

『大丈夫か?』

気遣って声をかけてくれる。

『平気。関君の方こそ疲れてるよね?さっき私を探して、いろいろまわってくれてたんでしょう』
『あれくらい問題ない。それに、俺はお前と違って鍛えてるからな』

思わず”お前と違って”に、軽く反応してしまう。

『何よ、私だって、毎日寝る前に、”ストレッチ”してるし』
『フッ…ストレッチときたか』
『何が可笑しいの?』
『いや、お前にはそれで充分だなって』
『その言い方、バカにしてる』
『朱音』

呼ばれて関君を見上げれば、意味ありげな笑みと共に、爆弾が投下される。

『あんまり鍛えんなよ。抱き心地が悪くなる』
『なっ…』

不意に一昨日の自販機前の出来事がフラッシュバックし、一気に心拍数が上がってしまう。
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