Sweet break Ⅳ
『…る』
『は?』
『紗季、私、頑張ってみる』
『…頑張るって、何をよ?』

訝し気にみる紗季に、まるで自分を奮い立たせるように、声高に宣言する。

『決まってるでしょ、関君と”恋人としてしかできないこと”を、よ』

言った途端、紗季が頬を赤らめ、周りを気にするそぶりをみせる。

『ちょっと朱音、頑張るのは良いけど、そういうこと、口に出すことじゃないからね』
『口に出した方が、現実味あるでしょ』

子供の頃から、潜在的に、”嘘を吐きたくない”という感情からか、心の中で願うより、口に出して誰かに言った方が、俄然やる気が出て、実現することが多かった。

それこそ、運動会の順位の時も、苦手な理科のテストの時も…そうだ、この会社を受けるときも、口に出したことで士気が上がったり。

『それに紗季、今回の新人育成は、そういう意味で私にとっては、ちょうど良い機会かもしれない』
『いい機会?』
『私ね、前に関君に男慣れしてないんじゃないかって言われたことあって、自覚はないんだけど、そうなのかもしれない。だから、この際、後輩君で慣れてみようと思うの』

言ってから、我ながらいいアイデアが浮かんだものだと感心する。

未来君に仕事を教えつつ、こちらの問題も同時に克服できれば、一石二鳥かもしれないと。

『朱音、今、なんか良いこと思い付いた的な顔してるけど…大丈夫なの?年下とは言え、未来君も”男”だよ?』
『これって、男じゃなきゃ意味ないでしょ』
『それはそうなんだけど…』
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