Sweet break Ⅳ
てっきりここで花火を鑑賞するのかと思っていたら、関君は広場を横切り、その先に続く遊歩道へと進むと、直ぐに舗装されていない脇道に逸れる。

『俺らはこっちだ』

繋がれた手に引かれるまま木々に囲まれた道なき道をついて行けば、ほんの1~2分で見晴らしの良い小高い丘にたどり着いた。

後手に大きな森林を背負いながらも、意図的に刈られような芝がひきつめられたそこは、横に広く解放的な場所。

公園に来てからずっとあった、むせるような夏草の匂いも、今は時より吹く風に流され、全く気にならない。

さきほどの広場に比べて、人の数は極端に少なく、全体が夜の薄闇に包まれていた。

『ここは星を見るためだけに作られた場所らしい。そういう意図で街灯の類はほとんどないから、足元、気をつけろよ』

確かに、見渡す限り街灯は一本も無く、唯一の明かりはところどころ数メートル間隔に地面に設置されている、小さなダウンライトのみ。

ゆっくりと芝を踏み鳴らし、海側にある丘の先端まで進む。

『…凄い』

たどり着いた場所は、先ほどの広場にあったような柵もなく、前方に遮るものが何もない分、眼下には雄大な湘南の絶景が広がっていた。

『少し離れた場所からにはなるが、ここからなら花火全体を見ることができるらしい』
『関君、調べてくれたんだ』
『まぁな…と言いたいところだが、俺が調べた訳じゃない。落合からの情報提供だ』
『…落合さんから?』

瞬間、先ほどの…浴衣姿の彼女が、脳裏によぎる。

『アイツなりに、例の出張の件でお前を不安にさせたこと、気にかけてるんだろ』
『そう…なんだ』

”さっき、彼女と会ってたよね?”

喉まで出かかった言葉は、言えずにまた飲み込んでしまう。

『そろそろ、時間だ』

花火の打ち上がる定刻を過ぎ、眼下に望む海沿いのいくつかの照明が、意図的に消されていく。
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